私は親しい友人や家族へのプレゼントに、ヘンプ(大麻)で作ったミサンガのアクセサリーを贈ることがよくあります。ヘンプのアクセサリーはナチュラルで大人っぽい高級感があり、男性にも女性にも似合うから、ハンドメイドのプレゼントにすごく便利です。

プレゼントするときには、「留め具やパーツが取れたら修理するから言ってね」といつも伝えていますが、決まって言われることがあります。それは、

「ミサンガが切れると願いが叶うっていうのに、修理するの?」

どうやら、ミサンガのブレスレットには、アクセサリーというより「縁起もの」といったイメージを持っている人のほうが多いようです。そこで、なぜミサンガが切れると願いが叶うと言われるようになったのか、また、見るからに丈夫そうなミサンガのブレスレットが、本当に切れることはあるのかなどを、詳しく解説します。

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ミサンガブームが始まったのはいつ?

日本国内でミサンガブームが起きたのは、ブラジル出身のサッカー選手の影響です。1993年のJリーグ発足時、ブラジル出身のサッカー選手がお守りとして「ミサンガ」を身につけていたため、というのが定説です。
サッカーといえばミサンガ、ミサンガといえば縁起ものという構図が、あっという間に定着しました。

けれど厳密には、当初、彼らが身に着けていたのは、いま現在「ミサンガ」と呼ばれている組み紐のブレスレットではありません。ブラジルで「フィタ」あるいは「ボンフィン」と呼ばれている、リボン状のひも飾りです。

願いが叶うと言われるようになったそもそもの起源は?

フィタはブラジルのボンフィン教会の近くで売られている紐飾りやリボンのことで、日本で例えるなら「お守り」や「念珠」のような位置づけです。

フィタを手首や足首に2回巻いて3回結びますが、1回結ぶたびに1回、合計3回、願いごとをします。そして、フィタが自然と切れた時に、願い事が叶うと言われています。

なるほど、平織りのリボンなら、ずっと身につけていればそのうち自然と切れるかもしれませんね。けれど、組み紐のブレスレットが自然と切れるまでには、かなり時間がかかりそうです。

あまり丈夫じゃない木綿のししゅう糸を使って作っても、そう簡単には切れません。たくさんの糸を使って作った幅の広いブレスレットなら、数年たっても切れないでしょう。

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なぜリボンが組み紐に化けたのか?

いつ、どうして、どうやって、リボンが組み紐に化けたのか、ハンドメイドと謎解きが好きな私は、いろんな角度からリサーチを重ねました。

ラモス瑠偉をはじめとしたブラジル出身のサッカー選手は、Jリーグが発足するずっと前から日本国内でプレーをしていました。ネットでラモスが若いころの画像が探すと、フィタだけを巻いている画像や、ミサンガをフィタと一緒に手首に巻いている画像、何本ものミサンガを巻いている画像などがあります。

彼らがミサンガ(組み紐)のブレスレットを最初に巻いたのはいつなのか、始まりまでは分かりませんが、1993年のJリーグ発足時にはすでに身に着けていました。

推測するに、彼らがフィタとミサンガを手首に巻いているのを見てインタビューした人が、「フィタが自然と切れた時に願い事が叶う」という話を「ミサンガが自然と切れた時に願い事が叶う」と報じ、それが定着してしまったのではないかと考えられます。

劇場版ルパン三世の中にヒントがある?

当時の様子を知る手掛かりになるのが「ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス」です。1995年4月に公開された映画で、ミサンガが重要な役割を果たしています。

私はルパン三世のアニメが大好きで、劇場版はもちろん、テレビスペシャルもほとんどDVDに保存していますが、先日、たまたまこの作品を見ていたら、あるサッカーチームの選手がおそろいのミサンガを付けて登場しました。

私はあまりサッカーに興味がなくて、Jリーグが発足した当時、ほとんどサッカーの試合やニュースを見ていなかったのですが、こんなふうに、選手がおそろいのミサンガを付けて試合に出たことがあったのかもしれませんね。

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「ミサンガ」の語源

ところで、ミサンガにはもうひとつの謎があります。それは呼び名です。「ミサンガ」の語源はポルトガル語で、もともとの意味はビーズ飾りを差します。ポルトガルでは、紐飾りをミサンガとは呼びません。

ブラジルにはポルトガルの植民地だったという歴史があり、ブラジルの公用語はポルトガル語ですから、日本で組み紐のブレスレットを「ミサンガ」と呼ぶようになったのは、やはりブラジル出身のサッカー選手による影響でしょう。

いま現在、日本で「ミサンガ」の呼び名で定着している組み紐のブレスレットは、厳密には「マクラメ(macrame)」と呼ぶほうが語源にあっています。

「マクラメ」はアラビア語で、紐や糸を手結びして作った幾何学模様の手芸品のことです。手芸本などで紹介されているミサンガの作り方は「マクラメ編み」を参考にしているもので、この意味でも、マクラメと呼ぶほうが合っています。

日本における組み紐の歴史

ちなみに、日本にも古くから組み紐の文化はあります。きものの帯締めや羽織ひもなどがそうです。組み紐の技法は仏教とともに大陸から伝わったとされており、奈良時代には礼装のかざりに用いられていました。

日本における組み紐の歴史は古代にまでさかのぼり、弥生時代には早くも組み紐は装飾品として使われていたことが明らかになっていますが、ミサンガの作り方は古代の組み紐の技法とたいして違いません。

現在、組紐(くみひも)は日本の伝統工芸品に指定されていて、複数の技法があり、それぞれ厳しい定義があるため、「くみひも」という呼び名を安易に使いにくいイメージがあります。そのせいか、ミサンガやマクラメといったカタカナのほうが気軽に呼びやすくて定着するというのは、ちょっぴり残念な気もしますね。

ミサンガとプロミスリングは同じもの?

この疑問を抱えている人が多いようですが、結論から言うと同じものです。私がもっている広辞苑(1998年に再編された第5版)には、すでにミサンガの記述があり、「ミサンガ」をひくとプロミス・リングという記載があります。

けれどこれは、何が正解かという話ではなく、ミサンガ=プロミスリングという呼び名が、このころすでに日本では定着していたととらえるのが正しいです。

プロミス・リングを英語で直訳すると「約束の輪」という意味ですから、願いを叶えてくれるというよりは、約束の証という表現に使うほうが自然です。現にアメリカでは、恋人たちが身に着けるペアリングをプロミスリングと呼んでいます。

このため、アクセサリーショップの中にはプロミスリングの呼び名で指輪を販売しているお店もあって、「プロミスリングって結局は何なのよ!?」といった疑問を抱えている人が増えています。

結局のところミサンガって何?

「ミサンガ」という呼び名は、日本に入ってきたあとで、それが指すものもその解釈も変化しました。そもそも、組み紐のブレスレットをミサンガと呼ぶことからして間違えています。

でも、だからといって「ミサンガじゃなくてマクラメが正解でしょ?」とか、「ミサンガをプロミスリングっていうのはおかしくない?」といった議論をすることに、意味はあるのでしょうか。

だって、すでにあまりにも多くの人にとってあれは「ミサンガ」であり、「プロミスリング」なんです。

ミサンガは25年ほど前に新しく生まれたモノで、マクラメ編みの技法を用いて刺繍糸で作る手作りのプロミスリング(約束の輪)で、身に着けていて自然に切れると願いが叶います。原則として、ブレスレットとアンクレットを指します。なお、ミサンガもプロミスリングも英語では別の意味をもつため、海外では通じません。

私はこのように捉えています。

ミサンガってどれくらいで切れるの?

「ミサンガって本当に切れるモノなのかな?」という疑問を抱えている方も多いでしょうが、残念ながら、ミサンガはそう簡単には切れません。というより、切れやすいように意図して作らないと、自然に切れるのは難しいです。意図して切れやすく作っても、半年ぐらいじゃ切れません。

私の場合、ミサンガを作るのに刺繍糸ではなくヘンプを使いますが、ヘンプのミサンガは猫がガシガシ噛んでも切れません。10年以上前に自分用に作ったヘンプのブレスレットやネックレスは、いまでも現役です。

先にも説明したように、切れたら願いが叶うと言われているのは、もともとはリボンだったんです。ミサンガは組み紐で、組み紐は本来、簡単に切れないように作られた丈夫なひもです。

だからこそ切れたときの感激も大きくて、元来、我慢強い日本人には、切れやすいリボンより切れにくい組み紐のほうが頑張りがいがあり、ミサンガというプロミスリングが日本に定着したのかもしれませんね。

だれしも縁起物は好き

今では、ミサンガはいろんな場所でいろんな形で売られています。200円程度の値段で気軽に買えるおみやげ品もあれば、1万円を超える本格的なアクセサリーもあり、値段の幅はピンキリです。

ミサンガは縁起物というだけじゃなくアクセサリーでもあるから(というか、もともとはただのアクセサリーだったんですが)、おしゃれ感覚で身に付けることができます。
願掛けのために常に身に着けるのにミサンガはあまりにもピッタリで、受け入れられやすかったというより、願掛けになると信じたかったというのが正解かもしれません。

日本人に限ったことではありませんが、人は縁起物が大好きです。自分ひとりの力ではなかなか目標を達成できないときは、なにかしらの「縁起物」に頼りたい気持ちを、誰しも少なからず持っています。

自分の縁起物を何にするかなんて、本当のところ、自分で決めちゃっていいんです。でも、だれかが決めてくれると悩まなくていいし、なんとなく安心ですよね。

それでもやっぱりミサンガは切れた方がいい?

ここまでお伝えしてきたように、現在「ミサンガ」と呼ばれているものの歴史はあまり古くありません。また、ミサンガ(正しくはフィタ)が切れたら願いが叶うと言われているのに反して、丈夫な手組み紐のアクセサリーは、古来から「お守り」として大切な人に贈られてきました。

ですから、私がプレゼントに手づくりのミサンガを贈るときは、「相手を守ってくれるように」という想いを込めて作ります。

だからといって、仮にミサンガが切れてしまい、贈った相手が喜んだとしても、別にショックじゃありません。だって「これで願いが叶う!」と思って喜んでいるのだから。
あるいは、もらったミサンガをうっかり失くしたと言われても、やっぱりショックじゃありません。

常に身に着けているアクセサリーを無くした時は、その人が受けるはずだった災難を、アクセサリーが代わりに引き受けてくれたんだと私は信じていて、だからこそ、大切な人には手作りのアクセサリーを贈りたいなといつも思っています。